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偽島で、とあるパンダの歩いた道。
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「ちょいと、旦那…いつまでアタシを無視するつもりだい?」

知らない間についてきていた石壁を、にゃもの遊び相手にと引き渡したその日の午後。
集団から少し外れて一服するのに良さそうな場所を探していた時のことである。
艶っぽい女の声に、俺は辺りを見回す。


特に誰も居ない。

「…旦那?一体、何処見てんだい?アタシはこっちだよ!」
再度きょろきょろと見回す。

……聞き覚えはあるんだよな……。
首を傾げつつ、煙草を銜えようと口元に手を運んだ。

煙草の他に、何かいた。

「…うおっ!ビックリさせんな!」
「…んもう…わざとらしいんだよ、アンタは!」

……灯台下暗し。
掌サイズの女が俺の腕に座っていた。
ただ座ってこちらを見ているだけだというのに、その女は妙に色っぽい。
藤色の着物の着崩し方、異様に白い肌色に差された紅、手の添え方、長い黒髪を束ねた解れ具合……どれ一つとっても色香を感じる。
でも、それは、堅気の女にはない種類の色香だ。
「旦那…ま~さか、アタシをお忘れじゃないだろうね?」
拗ねた口調で身を少し捩る。

……えーと……えーと……。

俺はフル回転で脳内の交友リストをめくる。
そもそも、余り社交的ではない俺のリストなど、たかが知れている。
30秒ほどでリストとマッチする。

「モモコか!久しぶ…」
「ヤダよ、旦那ったら!」
女は持っていた煙管でコツンと俺を軽く叩く。
「そんな小娘みたいな名前で呼ばないでおくれよ!恥ずかしいじゃないか…」
「じゃあ、毒ムカ……あだだだだだだだ!!
煙管を持っていない他の手で、いっせいに抓られる。
「……口は災いのもとだねぇ、旦那。素直に『お百』ってお呼びよ。」
そう。
言い忘れたが、彼女の腕は一本でもなければ二本でもない。
今、確認できるだけで六本ある……本当は、もっとある事を俺は知っている。多分、四十二本。

そして、このお色気たっぷりの姐さんの一番の特徴は、目だ。
彼女の顔の上半分は『百』と書かれた布の面に隠れて見えない。
何か、呪術的な意図を感じる。

「モモ…じゃない、お百…まだ『会社』に居るのか?」
俺は抓られた腕をさすりながら尋ねた。
「そりゃ居るサ。旦那と違ってアタシは独りで生きてはゆかれないからねぇ。」
お百――モモコは、俺が若い頃に所属していた組織『株式会社 魔界』の元同僚だ。
辞めて独立して以来、会っていない。

「で、そんな寂しがり屋のお百姐さんは、こんなところで独りで何してんだ?」
俺は煙草に火をつける。
モモコも煙管をくわえる。
「そうだね……傷心旅行って奴かねぇ。」
紅い唇から煙が吐き出される。

モモコの艶やかさは男をひきつける。
そして、当の彼女も恋多き女。
だが、残念なことに、男運が悪い。
色んな事情で長続きが出来ない相手ばかり、好きになる。
モモコの恋愛活劇は組織では有名だった。

「……アンタ、変わんねぇなぁ。」
「アタシのサガだね。」
自嘲気味に口の端を少しだけあげて、笑みを作る。
「……今回のヒトは、けっこう長く続いたんだよ…アタシにしては、サ。」
財布の紐の緩い男だったけどねぇ…といいながら、また煙を一つ。溜息とともに。
「あのヒトとも縁がなかったんだね……」
今までどれだけ縁が無かったことか……懲りない女だ。
「まぁ、なんつうーか、あれだ…世の中には…」
「石ぶつけりゃあたるくらい男はゴロゴロいる、だろ?旦那の慰め方はいつも一緒だからね。耳タコだよ。」
「悪かったな、ワンパターンで…。」
「旦那こそ変わらないね……前と同じ。優しいまんまだ。」
モモコが笑った。
「アタシ、旦那に惚れたら良かったな。」

…ごふっ…。

器官に煙が入ってむせる。
「冗談に決まってるだろ、ホント相変わらずだね。」
飽きれた口調。
「旦那みたいなヒョロヒョロした貧相な男はタイプじゃないって知ってるだろ?」
「知ってるよ!だから気色悪ぃんじゃねぇか!」
ってか、ヒョロっこいとか結構失礼だな。
「まぁ、次のご縁を探すだけだよ。だって、あの人とご縁がなかったって事は、他の人とご縁があるってことだろ?」
「アンタ、ホント、男が居ないとダメなのな!」
「仕様が無いじゃないの……独りじゃ生きてかれないんだから、アタシは。」
モモコは、さっきとは違って楽しげに笑っている。
少しは気が紛れたのだろうか?
寂しそうな顔のままで、ここで別れたのでは気になるから良かった、と思う。

「まぁ、そういう事でさ、旦那。」
立ち上がりかけた俺を制すように、モモコは急に居住まいを正す。
「ここであったのもご縁だろ?アタシを助けておくれよ。」


――イヤな予感。


「この島でイイ男見つけるの手伝っておくれよ。」
「アホか。そんなの自力で何とかし…」
「あすこにいるお嬢ちゃん達、連れなんだろ?」
モモコは艶やかな笑みを口元に浮かべた。
「お別れのご挨拶に、在るコト在るコト吹き込んでいこうかね?」




モモコが  旅の  仲間に  なった!
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パンダのこと
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パンダ
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性別:
非公開
自己紹介:
ヘビースモーカーなパンダ系獣人族。
赤いパンチング・グローブがトレードマーク。

「パンダといえば中国四千年」思想に辟易しており、フ★イフェイとかファンフ☆ンとか、人気パンダ風のあだ名に抵抗がある。
ちょい悪オヤジ系のダンディズムを追及中。

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