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「なぁ、いっちゃん。アンタもっと効率よく大人になりたいと思わねぇか?」
幾沙が不振な表情で俺を見上げた。
「俺の観察日記で外れるリミッターなんて、たかが知れてるだろ?」
昨日の戦闘中に幾沙がほんの30秒ほど成人化した。
胡散臭い野郎が置いて行った指輪で、一時的に魔力が解放されたのだろう。
早く成人化したい彼女がそれで満足しているとは思えない。
「それよりも、スゲェことすればいい。」
「……例えば?」
彼女を早く大人にしてやれる方法が、あるかもしれない。
――そして、それは、俺にとっても都合がいい。
「前に、俺が呪われてるって話したよな?」
幾沙は頷く。
俺は体の中心へ意識を集中させる。
一瞬、軋む様な感覚がして、俺の体が変化する。
獣から、人へ――。
俺が自ら人化するとは思わなかったのか、幾沙は少し戸惑っているようだ。
「俺の腕にある刺青、見たよな。俺の呪いの証。」
俺が袖をまくると、左手首から上腕まで入った幾何学模様のような刺青があらわになる。
「これな……超簡単に言うと『水被ると人化する』呪いなんだ。」
「そんな呪いが……」
俺の呪いは、学校でも優秀な成績を収めているのであろうこの娘の興味を惹いたようだ。
「いっちゃんさ、実は呪いとか興味あるだろ。なぁ、俺の呪い解いてみねぇか?」
食い入るように刺青を見ていた幾沙は顔を上げた。
「俺の呪いを解明できたら、アンタのリミッターなんかすぐ外してもらえる。保障する。」
俺の真意を見極められないでいる幾沙は戸惑った表情を見せている。
俺はくわえた煙草に火をつける。
「俺に呪いをかけた奴は、その道ではトップの座にいる奴なんだ。」
幾沙の目が見開く。
「まさか……」
「アンタの大事な義妹を苦しめてる奴でもあるな。」
吐き出した紫煙の先を見つめながら、俺は本題を口にした。
「俺に協力してくれるなら、アンタの実験に付き合ってやってもいいよ。」
***
約二週間ぶりに戻ってきた偽島唯一の波止場は、島に出入りする人々でごった返している。
幾沙はその気になった要で、俺と次の島へ渡る事に決めた。
にゃん太郎とユ・アは、ここでお別れだ。
子供達を置いて行くのは少し後ろ髪惹かれたけれど、俺も幾沙も目的が出来てしまった以上、仕方がない。
「ねぇ、どの船に乗るの?」
幾沙に尋ねられ、俺は辺りを見回した。
「えーとなぁ、確か…………お?」
俺は、一瞬自分の目を疑った。
着岸したばかりの船から降りてくる人々の群れに、見知った姿を見た気がした。
ここに居るはずの無い、黒いマントをたなびかせた暗い紅の髪の長身の男の姿を。
「……どうかしたの?」
「や、今な……」
俺は煙草に火をつける。
「アンタの義妹の…旦那を見かけた気がしたんだ。」
「……えっ?!」
幾沙は慌てて俺が今まで見ていた方向に視線を向ける。
人込みに紛れてしまったのだろうか……もう、あの男―紅い悪魔―の姿は見えない。
「まぁ、見間違いだろ……居るわけネェしな。」
煙を吐き出しながら、俺は幾沙の頭を軽く撫でる。
……そう、きっと気のせいだ。
紅の悪魔が、ここに居るはずがないのだ。
幾沙が急いで成長したいほどに、俺の申し出に乗るほどに、大事に思っている義妹。
その旦那である紅い悪魔は、不相応な願いの代償に、魔界で一番美しい桜の木に囚われ中なのだから。
「……じゃ、行くか?」
幾沙が俺を見上げる。
俺は煙草をもみ消すと、幾沙に手を差し出した――。
to be continue....?
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赤いパンチング・グローブがトレードマーク。
「パンダといえば中国四千年」思想に辟易しており、フ★イフェイとかファンフ☆ンとか、人気パンダ風のあだ名に抵抗がある。
ちょい悪オヤジ系のダンディズムを追及中。
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