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星が綺麗な夜。
魔法で灯した小さな灯りを頼りに端末に一生懸命打ち込んでいる幾沙と、隣でゆっくりと体を揺らすナエ。
いつもの夜の光景…と言いたいところだが。
溜息を一つ。
幾沙とナエの『バケツに水』攻撃に敗れた俺は、いまだに獣型に戻れないでいる。
日中の度重なる攻撃は交わしていたが、夕方、油断をしてしまったのだ。
新しい旅の連れであるにゃん太郎と連れとの待ち合わせ場所に向かった時の事だった。
その連れの仔竜――ユ・アに、一瞬気をとられた間に、水爆を受けてしまったのだ。
その道では有名な職人であるにゃもの祖父とは、傭兵時代からの知り合いで、この旅に出る際に野暮用で立ち寄ったところ、孫が一足先に俺の目的地へ向かったというではないか。
先日、大人の会合のために竹の子掘りに出かけた際、山の中でソレらしき『ねこっぽい生き物』とばったり会ったというわけだ。
あっちも爺から連絡を受けていたらしく、俺の事はすぐにわかったようだ。
そこで、近くにいるので一回みんなで落ち合おうという事になったのだが……。
ゆっくり会ってみると、にゃん太郎もユ・アも屈託の無い笑顔を見せる子供達だった。
心 配 に な っ た 。
ここでオサラバするには、あまりにも無邪気な一行だった。
ユ・アの世話焼きっぽいキリトリとか言う鳥もいるみたいだが、何処に悪い奴がいるとも限らない。
旅は道連れと言うことで、一緒に行動をすることにしたのだ。
幾沙も新しい旅の仲間が出来て喜んでるようだ。
好奇心の強い幾沙は、にゃもとユ・アの行動を一挙手一投足じーっと見ていたようだし。
情操教育だな、これも…って、なんで俺が幾沙の教育に関与せねばならんのか。
………もちろん、幾沙の両親が+小+怖いから-小-に他ならない。
とにかくそんな事があってから数時間経ち、日も落ちきって星の輝く夜だというのに、髪がまだ濡れそぼっている。
俺の髪質のせいか、なかなか乾きにくいのもあるが、焚き火による熱乾燥が出来ないのが痛い。
ここら一帯は草原で、草丈の高いところでも腰のあたりほどしかない。
こんなところで焚き火をしたら大火事だ。
煙草も携帯灰皿に棄てなきゃならん。俺は、環境に優しい男だ。
わっか状の煙を吐き出す。
消える間際のゆがんだ形は、にゃん太郎のように見えた。
…にゃん太郎のふんわりとした朗らかな感じは爺に似てると思う。
実際、爺は縁側で茶をすすってるような好々爺にしか見えず、そんな凄腕職人とは思わないだろう。
せいぜい、変わったもの集めが好きなお爺さんといったところだ。
にゃん太郎は、爺の仕事を知っているのだろうか?
――そして、その才能は受け継がれてるのだろうか?
俺は右前方の森に眼をやる。
にゃん太郎とユ・アは、同じ草原でも若干離れた森の近くで夜を過ごしている。
どちらにしろ目の届く範囲だ。
何かあれば、すぐに駆けつけることは出来る。
「……こんな状態じゃ、行っても何も出来ねぇな…」
溜息とともに煙を吐く。
――濡れ鼠とはよく言ったもんだ。
今の俺はまさにその言葉がふさわしい。
最弱状態をキープせざる負えないこの状況は、実にじれったい。
ここは確かに戦場ではないけれど、平和ボケした市街地なワケでもない。
魔物だって獰猛な動物だっている。
あまり油断はできない……こんな綺麗な星が出る夜ならば、なおさら。
一回、幾沙には時と場所を考えるように言わなければならないな、と思う。
溜息とともに煙を吐き出す。
――何もないといい。
携帯灰皿に煙草をもみ消す。
ザワリ。
風が変わった。
身の毛が逆立つような感覚。
殺気を感じた。
何かが近づいてくる。
それも、複数。
しかも、強い。
相手とはまだ距離があるというのに、首の付け根に刃を当てられた感覚がした。
端末を閉じて立ち上がろうとする幾沙が視界の端に映る。
ま ず い
俺は咄嗟に低い姿勢のまま横にとび、幾沙を抱えて地面に伏せる。
突然の事に幾沙は目を見開いてこちらを見ている。
俺は何も言わず、幾沙の口を手でふさぐ。
黙っていろと言う意思表示。
ナエは本能で危険を察知したのか、ただの草と同化している。
にゃもやユ・アは大丈夫だろうか?
禍々しい気配が近づいてくるのを感じながら、急に4対の無垢な瞳が気になった。
同じエリアとはいえ、あいつらにとっちゃ反対方向だから、多分大丈夫だろう。
……ていうか、人の心配してる場合じゃない。
腰の高さまでしかない草原。
普段の俺の獣型の大きな体を隠す事は出来なかっただろう。
今だけは闇色の髪と褐色の肌の貧相な人型でよかったと、思う。
隠れる事を情けないと言う奴はいるだろう。
それでも、この少女の命を守る可能性に繋がる。
俺にとってはプライドよりも、ソレが重要。
――ザワザワ。
息を潜めるまでもなく、息のつまりそうな濃密な気配が近づいてくる。
気の弱いものなら、その圧力に窒息してしまうのではないか。
・
・
・
また、風が変わった。
たぶん数分の出来事。
ナエがゆっくりと動き出す。
「………助かっ…」
俺はその場で脱力する。
俺達は見つからなかった。
目と鼻の先まで、その気配は来ていたけれど。
「……そろそろ、重いんだけど…」
俺の下からくぐもった声が聞こえる。
「あ、わりぃ…」
俺が横に転がって退くと、幾沙が立ち上がって服をはたく。
「今のって……?」
相変わらずの無表情で俺を見下ろす幾沙。
「……『死の警告』、かな。」
名前なんて知らない方がいい。
暗い世界の事など知らないで済むなら、それがいい。
綺麗な星の夜は危ない。
…そうだ。
これを教訓に幾沙には言っておかねばならないことがある。
俺の為にも、しっかり釘さしておこう。
「いっちゃん、この際だから言っときたいことがある。」
俺は上半身を起こす。
「もうちょっと肉付き良くないと、抱き甲斐がな……」
――鍋が飛んできた。
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赤いパンチング・グローブがトレードマーク。
「パンダといえば中国四千年」思想に辟易しており、フ★イフェイとかファンフ☆ンとか、人気パンダ風のあだ名に抵抗がある。
ちょい悪オヤジ系のダンディズムを追及中。
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